農薬取締法について

 農家なら誰でも知っておきたい農薬取締法について解説します。

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○農薬とは何ぞや

 農薬は農薬取締法で定義されています。

第1条の2 この法律において「農薬」とは、農作物(樹木及び農林産物を含む。以下「農作物等」という。)を害する薗、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルス(以下「病害虫」と総称する。)の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤(その薬剤を原料又は材料として使用した資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるものを含む。)及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう。

2 前項の防除のために利用される天敵は、この法律の適用については、これを農薬とみなす。

 つまり農作物に殺虫・殺菌・除草などの防除の目的で使うもののことを農薬といいます。ここで気をつけなければいけないのは、農薬とは機能名であって、それそのものの属性を示す言葉ではない点です。

 例を挙げると、みかん箱は使いようによっては椅子や台として利用できます。みかん箱に座っているときそれを「椅子」と言うのは間違いではありませんが、みかんを満載にして贈答するときに「椅子に入れて送った」とは言いません。
 農薬も同じく、殺虫剤や殺菌剤としてあるものを農作物相手に使うからこそ「農薬」と呼ぶので、農作物相手に使わない殺虫剤を農薬と呼ぶのは間違っています。

 さらにもう一つ言うと、この法律では農薬が使われる場所についての規定がありません。つまり、専業農家の畑で使われるものも、自家消費用の家庭菜園で使われるものも全て農薬です。マンションのベランダで育てる鉢植えに使われるものも農薬です。

 いちいち細かくどうでもいいことを言っているようですが、これを踏まえて2年前の中国製ギョーザ事件を思い出していただけたら少し重要性がわかるのではないかと思います。あの事件では「農薬入りギョーザ」などと言っていた報道がかなりありましたが、メタミドホスは殺虫剤(正確には殺虫剤成分)であって農薬ではないのです。工場で殺虫に使っていた薬剤なので。
 この場合、もしギョーザの中身のニラや白菜などに大量の「農薬」が残留していたならば農薬入りギョーザと言っても間違いではありませんが、その可能性は最初からほぼありませんでした。

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○農薬とは何ぞや 2

 で、農作物に対して使われる薬剤は全て農薬ですが、その中でも使っていいものと悪いものがあります。

 第11条 何人も、次の各号に掲げる農薬以外の農薬を使用してはならない。ただし、試験研究の目的で使用する場合、第2条第1項の登録を受けた者が製造し若しくは加工し、又は輸入したその登録に係る農薬を自己の使用に供する場合その他の農林水産省令・環境省令で定める場合は、この限りでない。

1.容器又は包装に第7条の規定による表示のある農薬(第9条第2項の規定によりその販売が禁止されているものを除く。)

2.特定農薬

 7条は、

第7条 製造者又は輸入者は、その製造し若しくは加工し、又は輸入した農薬を販売するときは、その容器(容器に入れないで販売する場合にあつてはその包装)に次の事項の真実な表示をしなければならない。ただし、特定農薬を製造し若しくは加工し、若しくは輸入してこれを販売するとき、又は輸入者が、第15条の2第1項の登録に係る農薬で同条第6項において準用するこの条の規定による表示のあるものを輸入してこれを販売するときは、この限りでない。

1.登録番号
(2以下12までありますが、省略)

 というわけで、農水省によって登録された農薬以外の農薬を使ってはならないとあります。特定農薬は例外ですが、しかし特定農薬は重曹、食酢、天敵類の3つだけです。
 また、11条は「何人も」とされています。つまり専業農家だろうが専業主婦だろうが、と言う意味です。第1条の2とあわせると、マンションのベランダでプランター栽培しているトマトであっても登録農薬以外の農薬は使えないということです。もっともそんな規模の栽培だったら農薬なんか使わずに手で取ればいいだけですが。

 ここで明らかに規制されているのが、自家製のオリジナル農薬です。例えばニンニクや唐辛子の抽出液、牛乳、ニームオイル、木酢液などを殺菌や殺虫目的で使っている例は山ほどありますが、全て農薬取締法違反なのです。ホームセンターなどで堂々と売られているものもありますが(一番有名なのはHB−101か木酢液)、使用してはいけません。登録農薬と無登録農薬を見分けるのは簡単で、登録農薬には必ず「農水省登録○○○○○○号」と言った表示があります。
 本来、登録農薬以外の農薬を販売してはならないと言う法律もあるのですが(第9条)、ほとんど野放し状態です。HB−101なんかは手馴れたもので、「植物活性液」と表示して「農薬じゃないよ〜」とアピールしています。

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○農薬の使用

 使い方についても定めがあります。

第12条 農林水産大臣及び環境大臣は、農薬の安全かつ適正な使用を確保するため、農林水産省令・環境省令をもつて、現に第2条第1項又は第15条の2第1項の登録を受けている農薬その他の農林水産省令・環境省令で定める農薬について、その種類ごとに、その使用の時期及び方法その他の事項について農薬を使用する者が遵守すべき基準を定めなければならない。

2 農林水産大臣及び環境大臣は、必要があると認められる場合には、前項の基準を変更することができる。

3 農薬使用者は、第1項の基準(前項の規定により当該基準が変更された場合には、その変更後の基準)に違反して、農薬を使用してはならない

 簡単に言えばラベルに書かれている以外の使い方をしてはいけません。正直この点に関しては素直に納得できない事があるのですが、例えば散布と書いてあれば散布であって浸漬してはいけないし、農薬の使い方を農家が自ら工夫する余地は一切ありません。もっとも規定が全くなければ困るだろうなとは思います。
 この部分でよくありがちなのが、主に農薬のことを良く知らない素人農家のやり方ですが、薄めまくります。本来10倍の濃度で使うものを平気で100倍や200倍にします。当然効きませんが、メーカーやJAに「効かないぞ」と文句を言います。実はこれだって農薬取締法違反で、罰則もあったりします。

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○農取法違反の農産物の扱い

 農薬取締法11条や12条に違反すると3年以下の懲役または100万円以下の罰金という罰則がありますが、実は違反した農作物については規定がありません。つまり無登録農薬を使って作ったからと言ってそれらを回収する法的義務はありません。
 なんだそりゃ、と思う方もおられるかもしれませんがそっちを規制しているのは食品衛生法であり、本来存在してはいけない成分が基準値以上に残留していれば食衛法に基づいて回収されます。残留農薬が基準値以下なら(つまり安全性に問題がなければ)そのまま流通します。農薬を使うこととそれが残留することは話が別だからです。
 逆に言うと、完全に農薬取締法を遵守していても、何かの拍子で農薬がたくさん残留してしまえば回収になります。もっともそういうことにはならないようになっていますが。

 ただし最近は慣例的に、農薬取締法違反の作物が見つかればそれらはほとんど回収されます。もったいない話です。

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 農家について日常的に関係あるのはこのあたりだと思いますが、しかし実際のところ、農薬取締法違反の事例なんか世間に満ち溢れています。雑誌「現代農業」なんかしょっちゅうオリジナル農薬の記事を載せているようですし、ぐぐってみると「有機栽培のために、木酢液などの天然農薬!」なんてのも山ほどヒットして、もしかしたら私の理解は完全に間違っているのでは?と不安になるほどです。
 つい最近教えてもらったものにストチュウって代物があるのですが、酢・糖類・焼酎を混ぜてつくった殺虫剤?だそうです。もちろん農取法違反です。